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外交研究会 要旨 (2010年)

航空・海運インフラ整備の方向について(要旨)
-ジャパン・パッシングを食い止めるためにー

2010.4.8
寺嶋 潔

  1. 近年、世界経済や国際政治における中国の存在感が急速に高まる反面、わが国の それが希薄になりつつあり、人的交流や物流の面でも、日本を素通りする傾向が 強まりつつある。このようないわゆるジャパン・パッシングを少しでも食い止めるためには、既存の枠組みを超えた国を挙げての取り組みを急ぐ必要がある。
  1. 国は既に空港整備の方針を転換し、地方空港の新設を打ち止めにして、拠点空港 に投資を集中することとし、とくに空港容量の不足が著しい首都圏では、羽田の 再拡張事業と成田の第2滑走路の2,500mへの延長工事を進めてきた。
    この結果、成田では今年3月末から空港容量が年2万回増の22万回となり、 新顔の外国4社が就航を開始したほか、全体の便数が拡大した。今後も段階的に容量を増やして、将来は30万回とすることを目指している。
    羽田についても、この10月には第4滑走路と新国際線ターミナルビルの建設が完成し、国際定期便が、昼間3万回(近距離)、深夜早朝3万回(距離を問わず) 就航可能となり、来年4月には国内線も昼間2万回増えて総計37万回となり、 将来は45万回まで拡大することを目指している。
    これにより、従来国際線は成田、国内線は羽田と分離されていた弱点が部分的 ながら緩和されるため、国際交流の便宜向上に貢献することが期待されるが、今後も ビジネス客を重点とした羽田の国際化をはかるため、飛行経路の見直し、ピーク時の 大型機優先策等により貴重な空港容量の有効利用をはかるべきである。
    しかし、これらによっても羽田で国際線に振り向けうる容量には限りがあり、既に強固な国際ネットワークを確立している成田の機能の向上をはかるため、国内線ネットワークの拡充、出入国審査官の大幅な増員、第2滑走路の更なる延長、アクセス鉄道の東京駅接着などを多角的に推進すべきである。また、首都圏の国内線需要の羽田集中を緩和するため、いばらきの活用、横田、厚木の共用化をはかるべきである。
  1. 関西国際空港は、国際・国内を結ぶハブ空港となることを期待されて、24時間 運用可能な海上空港として巨費を投じて泉南沖に建設されたが、伊丹空港が存続してしまったこと、関空の最適地と目されながらこれを拒否した神戸市が後になって独自に神戸空港を建設したことから、国内線の撤退が相次ぎ、苦境に立たされている。
    同空港は、アジア諸国に近いという利点を活かして国内・国際のハブ化をはかるため、伊丹就航国内便の関空への再移動を価格メカニズムを通じて促すともに、24時間空港の強みを活かして、貨物ハブ機能に活路を見出すべきであろう。
  1. 空港を基盤施設として成り立つ航空業は、第二次大戦終結とともに成立した シカゴ条約体制のもとで国際線は二国間協定にもとづく規制下におかれ、国内線も 航空法にもとづく厳格な規制を受けてきた。
    1970年代末期から米国が主導してきたオープンスカイ政策は、今日では世界 的に普及したが、日本は政策転換が遅れ、最近に至って漸く米国を含む9カ国と合意した。
    航空法にもとづく規制は1980年代後期から漸進的に緩和され、新規参入、路線、便数、運賃等につき企業の自由度が拡大され、新興航空会社も数多く出現した。ただ、空港容量の制約もあって、本格的なローコストキャリヤーは育っていない。
    地域の幅広い支援を受けた競争力のあるリージョナルキャリヤーの出現が待たれる。
    国際市場では、企業間のアライアンス形成が進み、3大グループ間の顧客囲い込み 競争に移行しつつある。内外市場の競争激化の中で体質強化に遅れをとった日本航空は、最近の世界不況の荒波に耐えきれず経営破綻したが、永年の規制体制に慣らされて経営責任感覚が欠如していたことがその主因と考えられる。企業再生の成否もこの意識改革にかかっている。
  1. 世界貿易における中国始めアジア諸国の比重の急速な高まりを反映してアジア 諸港のコンテナ貨物取扱量は急増し、世界ランキングの上位を占めるに至った。
    その結果、北米、欧州など基幹航路における日本諸港の相対的地位は著しく低下し、 大型化した本船は日本を抜港し、フィーダーサービスに委ねる傾向が強まってきた。
    これは、日本からの輸出にとって、所要日数の増加、荷傷みの危険など不利に働くため、従来から、東京湾、伊勢湾、大阪湾所在の6港を「スーパー中枢港湾」に指定して、コンテナターミナルの重点的整備が進められてきたが、さらなる船舶大型化に対応する水深18m埠頭の整備、港湾経営主体の統合などを進めるべく、 対象港湾の絞込み作業が現在行われている。
    三大湾はいずれも主要輸出産業を後背地に擁しており、寄港地の選択は船社や 荷主の商業的判断にかかっていることを見失ってはならないが、それぞれの湾内の 港湾機能の統合・強化は、自治体の枠を乗り越えて強力に進める必要がある。
    また、これから大きく成長するのは、アジア域内トレードであることを考えると、基幹航路のみに捉われて大艦巨砲主義に偏るべきではない。
  1. 日本の外航海運業は、早くから「海運自由の原則」の下で国際競争に曝され、 企業統合、コストのドル化などにより体質強化をはかってきた。コンテナ輸送でも 国際的アライアンスが形成されているが、日本船社は、各グループ内にあって、 重要顧客である日本の荷主の利便を確保すべく、極力日本寄港の維持に努めている。