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設立趣意書

 近年、わが国の国際的地位と責任が、ますます重大になってきた。戦後20年における不断の努力が実って、わが国は、今や、経済関係においてのみならず、国際連合その他の国際政治の場においても、押しも押されもせぬ世界の日本となり、今後の「新しい時代」をリードすべき立場に立つこととなったのである。
しかるに、他方、わが国の直面する国際情勢の現実は、核兵器の脅威、軍備の拡大、絶ゆることなき民族間の対立抗争など、並々ならぬ状況に立ち至っておることも事実である。
現に、米ソ両勢力を中心とする冷たい戦争は、差し当り、一張一弛とするも、われわれに直接ひびく身近のアジアの情勢は、至るところ、憂慮、に堪えぬ状態にある。現在火をふいているヴェトナムのことは言うに及ばず、インド、パキスタンの間においても、マレイシア、インドネシアの聞においても、将来、南北朝鮮の間においてさえも、いつなんどき、爆発し、平和を破らぬとも限らぬ危険性が、常に多分に潜在しているのである。
さらにそれらの不安な事態の背後に動く、より大きな勢力の関係が問題である。特にわが国にとっては、この背後の世界的広がりを持つ勢力の動きを、万事考慮、に入れて考えねばならぬところに、いっそう厄介な問題がある。以上のごとき困難な国際情勢に処して、わが国は、果して、如何なる心構えを持ち、如何なる用意が出来ていると言いうるであろうか。
私は、さきに1957年5月、鹿島研究所を創設し、さらに1963年3月1日、鹿島研究所出版会を設立し、国際間の平和および安全に関する調査研究を行ない、その成果を公にするとともに、幾多の著書、翻訳書を出版し、これを政界、経済界、学界等の各方面に配布した。また、吉田元総理を会長とし、私が副会長である財団法人日本国際問題研究所と共同編纂した「日本の安全保障」や「第三次世界大戦の防止」等の幾多の翻訳書は、各方面において高く評価せられたのである。
私は、今回、この鹿島研究所の精神を活かし、その公益性と永続性をさらに高めるため、ここに財団法人鹿島平和研究所を設立せんとする次第である。
財団法人鹿島平和研究所の目的および事業は、その寄付行為に明記せられておるとおりであるが、これを要するに、わが国の今後の安全と繁栄に直接関係のある基本的諸案件を調査研究し、その結果を発表して、わが国内の態勢の整備確立に寄与せんとすると共に、さらに、わが国が、アジアならびに世界の各国との関係において、今後ますます平和的役割を果たすことを期待し、出来うるかぎり貢献せんことを主たる目的とするものである。わが国の安全と繁栄は、世界特に東亜の平和なくしては到底実現出来るものではないから、われわれの最高の目標は、平和の確保でなければならない。平和は自然現象でなく、われわれの不撓不屈の努力によってのみはじめて達成されるのである。われわれは総力を挙げて、恒久平和の実現に遁進せんとするものである。
鳩山元総理が創立され、現に薫夫人によって率いられている友愛青年同志会の名誉会長で、日本婦人を母とするオーストリヤの貴族クーデンホーフ・カレルギー伯は、熱烈なる平和の使徒であるが、彼の次の言葉を私は財団法人鹿島平和研究所の理想と目標とを端的に表現したものと考える。われわれはためらうことなく前進しなくてはならない。

   平和は脅かされている
   平和は実現可能である
   平和は望ましいことである
   だから平和を作ろうではないか

 1966年7月1日
  設立代表者
  鹿島守之助