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外交研究会 要旨 (2011年)

ユーロについて   

 2011.7.22
  玉 木 林 太 郎

1.はじめに

ユーロを考えるとき、ヨーロッパの統合という長い歴史、数十年の通貨統合の歴史をふまえ、常に歴史的パースペクティブを持つこと、アメリカ・イギリス発の見方と大陸ヨーロッパの見方等をバランスよく考えることが重要である。最適通貨論からみて統一通貨はうまくいかない、などという一方的な議論ではなく、歴史の積み上げ等をふまえたバランスの取れた考え方を持ち、むしろ、ユーロの将来に対して希望を持って見ていきたい。

2.ユーロ誕生と拡大の主な経緯

1999年にユーロが通貨として導入され、2002年にユーロ紙幣・硬貨の流通 が開始された。EUの中でも、イギリス、デンマーク、スウェーデンが国民投票で不参加を決める一方、最近は、スロバキア(2009年1月加盟)やエストニア(2011年1月加盟)等の参加もあり、正式なユーロ加盟国は、17か国となっている(2011年7月現在)。世界経済のおよそ2割のシェアを占めるようになったユーロ圏は、いわゆる周辺国にとって、通貨圏に統合されるメリットが認識されたように思われる。

3.通貨統合のインプリケーションとユーロ圏の抱える困難

①通貨統合のインプリケーション

単一通貨の導入には、域内の為替リスクの除去、金融・資本市場の統合といったメリットがある。マクロ経済状況も、インフレや失業が収斂することが見込まれ、実際、ユーロ導入以降、参加国において物価の安定と失業率の低下が見られた。一方、単一通貨の採用は、各国にとって、独自の為替政策や金融政策を採用できず、財政政策が唯一のマクロ経済政策の手段となる。こうした制約の中、ギリシャ等、ユーロ加盟後に国内の賃金水準が上昇したことで、産業競争力の低下が問題となっている国では、為替の切下げにより価格競争力を改善するという手段が使えず、問題が蓄積して いく構図となっている。

②政府債務危機(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル)

昨今の、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルにおける政府債務危機は、その背景や経済事情等、それぞれ非常に性格の異なる危機である。ギリシャは、多額の年金支出や公務員人件費等にみられる放漫な財政運営と対外借入依存、硬直的で脆弱な民間セクターという組合せが政府財政を圧迫し、さらに、2009年10月の政権交代後に財政収支見込みを大幅に下方修正したことが市場不安を増幅させ、危機につながった。アイルランドは、ユーロ導入以降に急激な成長を遂げたが、不動産バブル、それに伴う銀行セクターの不良債権の発生という問題が起こり、銀行セクターがGDP比で約6倍に達したところでバブルが崩壊、その救済のために政府の債務問題に発展した。ポルトガルは、弱い産業競争力等の根深い構造問題を背景に、ユーロ導入後も低い経済成長が続き、徐々に政府債務が積みあがった。

③ヨーロッパに広がる金融不安と市場の反応

ヨーロッパでは、金融市場の統合も進んでいることから、域内諸国の政府債務の問題が、それらの国々の国債の信用や、同じユーロ建ての国債の信用に響き、さらに銀行の信用に響くこととなる。政府債務問題を抱える国々の金融セクターは、市場での資金調達が難しくなり、欧州中央銀行からの借入依存度が2009年末から急激に上昇している。また、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の価格は、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルで非常に高くなっている。ヨーロッパ域内で、同域内の債券を互いに買っている構造を背景に、これらの国々の問題は他の国々にも影響を与えるため、ヨーロッパで金融不安が広がっている。

④IMF・欧州による支援パッケージ

ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに対しては、IMF、EU諸国、EFSF(欧州金融安定ファシリティ)による支援スキームができている。日本は、EFSFの発行する債券(EFSF債)の購入や、IMFへの融資を通じたIMFからの支援能力の補完的強化を通じ、支援のシステムを側面からサポートしている。7月21日のユーロ圏首脳会合では、ギリシャへの追加的支援に関し、1,090億ユーロの公的支援に加えて、民間部門の支援を組み込むことに合意した。さらに、貸付金利の引下げやEFSFからの融資の償還期限延長なども含んでおり(今後ポルトガルやアイルランドにも適用)包括的な支援となっている。

4.ユーロ安と日本経済

物価水準と貿易相手国のウェイトを考慮して算出される実質実効為替レートは、名目為替レートほど明らかな円高になっていない。ユーロ安による円高では、欧州での売上が米州向けを上回るような電気機器産業で、対ドルに比べて為替のヘッジが乏しいことなどから、影響を受けやすいとも考えられる。また、円高の影響を考えるとき、いわゆる為替感応度は企業によって計算方法も異なり、円高による輸入コスト減はどのように考慮されているのか、多国籍企業がどのように対応しているかなど、円高の日本企業への影響は単純化して考えることはできない。日本の2002年から2007年までの戦後最長の景気回復を主導したのは輸出の拡大であったが、経済の中でウェイトの高い個人消費はほとんど横ばいの状態が続いており、こうした輸出主導の経済成長が今後持続的なのかどうかも考える必要がある。

5.終わりに

ユーロ導入は、ヨーロッパ中央銀行による統一的な金融政策から始まったが、昨今の危機以降、EFSFという危機対応の組織や、ECBによる流動性供給のシステム充実、さらに、EUレベルで、安定・成長協定のより厳格で一貫性のある運用や経済政策協調の強化などについても大幅な前進がみられている。通貨と金融だけが形式に統合しているという状態から、特に財政や経済政策での協調が進められている。こうした経緯からは、ヨーロッパにおけるユーロを作り発展させるにあたっての強い政治的意思が感じられる。