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外交研究会 要旨 (2011年)

オバマ政権の内政と外交をめぐって  

  2011.3.4
  久 保 文 明

1. 内政

  オバマ大統領の支持率は中間選挙投票日前後で40%台前半であった。就任当初は70%であったので、かなり下がったことになる。ただし、2011年3月現在、40%台後半から50%前後にまで盛り返している。支持率低下については、1960年代半ば以来の政治不信、およびアメリカ政治のイデオロギー的分極化も原因となっている。民主党員は現在でも強くオバマ大統領を支持しているが、共和党員からの支持は極めて低いレベルにある。

  オバマ大統領の前半2年間については、きわめて画期的な内容をもつ重要法案を多数成立させた。業績としては、質量どちらにおいても1960年代のリンドン・ジョンソン以来かもしれない。大型景気刺激策、健康保険改革、金融規制改革、ブッシュ減税の延長、同性愛者の軍勤務禁止の解除、米ロ核戦略核軍縮条約の批准などがそれにあたる。

  ただし、現在のアメリカ政治の特徴として興味深いのは、世論が以上の業績のいくつかについて否定的であることだ。大型景気刺激策と健康保険改革がとくに不人気である。

  中間選挙投票日で9.8%という失業率のなか、とくにティーパーティと称する新しい政治勢力が台頭して中間選挙でも躍進し、共和党の中で大きな影響力を獲得するにいたった。 中間選挙の結果、下院で共和党が多数党となった。オバマ大統領は大きく路線を中道寄りに変更し、ブッシュ減税の丸のみをしたほか、人事や法人税引き下げなどによって、経済界からの支持を回復しようとしている。

   他方で、ティーパーティ系議員や支持者から突き上げられている共和党保守派の下院指導部は大幅な歳出削減を求めてオバマ政権・上院民主党と対峙している。連邦政府閉鎖もありうる。このつばぜり合いは、2012年大統領選挙の帰趨に大きな影響を及ぼすであろう。おそらく閉鎖に持ち込むと、共和党に対する批判が強くなるであろう。

2. 外交

  相手のある外交では成果はすぐに出にくいが、既述した米ロ核合意、あるいはイラク撤退などが成果といえよう。アフガニスタンには2度増派を行ったが、成功したとは言い難い。

  オバマ外交は全般的に、交渉・協議を提案する低姿勢から始まった。ロシアに対してはこれで成果を獲得した。しかし、イラン、北朝鮮に対しては、比較的すぐに厳しい対応に変化させた。中国に対しても、当初は広範にして規模の大きい交渉を開始し、それによる成果も期待したが、2009年末から徐々に硬化させた。大きな転換点は2010年7月であろう。クリントン国務長官はハノイで開催されたARFの会議で、南シナ海での領土紛争を仲介する用意があること、アメリカも断固航行の自由を主張する点で利害当事者であることを宣言した。その後尖閣諸島をめぐる日本と中国の衝突においても、中国に批判的な態度を貫いた。ゲーツ国防長官は本年1月、慶應義塾大学で行った講演において、アメリカと中国の考え方がもっとも異なるのはどこだと思うかという学生からの質問に対して、躊躇なく「航行の自由」についてであると答えている。この概念は、アメリカの対中国政策を象徴する言葉といえよう。

  インターネットの自由についても、2010年1月にクリントン国務長官が中国を批判する演説を行っている。それは本年1月のリチャード・ホルブルック追悼演説でも繰り返された。

  アメリカの衰退が囁かれ、実際アメリカの国防予算の削減が実施されようとしているが、それは必ずしも東アジアでアメリカが「撤退」することを意味しないであろう。むしろ現在観察される限りでは、アメリカはアジアに留まり、中国に対峙していく方針を固めているように見える。その際、アメリカを支えるくれる同盟国の存在はある意味でこれまで以上に重要ということになる。問題は、日本がどの程度それに応えることができるかどうかである。