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 「防衛政策討議 その2」を拝読して       (2013.1.7)

NHK出版 特別主幹
元NHK記者
二 宮 知 道

 「防衛政策討議 その2」の最大のテーマは、「経済的、軍事的に台頭する中国に対し、日本はどう対処すべきか」である。これと表裏一体のものとして、日米同盟の内実、アメリカの世界戦略の変化が問われている。
 2010年9月7日の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件を受ける形で、討議は11年1月から始まり、3月11日の東日本大震災という歴史的な出来事を挟んで、4月まで計5回行われた。
 討議の参加者は外務省でキャリアを積まれた方々を中心に、防衛や経済の専門家が加わった11名。本議事録の冒頭に11名の名前と経歴が記載されている。ただし、発言者は実名ではなく番号で表記されており、原則、匿名扱いになっている。議論を活性化させて、自由な発想を引き出そうという狙いがあるものと思われる。

 長年、国内政治を取材してきた立場から見ると、外交問題は取り扱いが難しい。 国内であれば決定権者の取材が可能であり、それが出来ない場合でも周辺の情報を集めてその質を測り、かなりの確度で見通しが立てられる。
 外国政権の場合は国内取材のようにはいかない。特に中国の場合は、本議事録でも指摘されているように共産党の壁は厚く、その意図と能力を推し量るのは容易でない。政府・共産党の公式発表や政府系メディアの情報を基本に、欧米中文メディアといわれるネット情報も丹念に見て変化を探っていくという粘り強い作業が求められる。そこでは語学力はもとより、中国に関する知見や歴史認識に裏打ちされた認識力、判断力が必要となる。
 アメリカの場合は中国とは違った難しさがある。人種、宗教、歴史が複雑に絡み合って国民の政治意識が形成されている。公開情報は中国とは比較にならないくらい多いが、ワシントンで取材した同僚の記者達は「アメリカは大きすぎて分らない」という感想を漏らす。
 両超大国に関しては、個々の情報の質を繰り返し確認しながら、どのような判断基準のもとに評価するかを明確にしていくことが重要なポイントとなる。
 こうした個人的な観点に立って本議事録を拝読すると、議事録には様々なレベルの情報と分析、評価が提示されており刺激的である。
 尖閣諸島の領有権を突破口に日本に対する圧力を強める中国への苛立ちが共通の背景となっており、底流には中国13億人の人口の圧力がある。歴史的にも日本が初めて直面している事態について、参加者は多様な角度から発言しており、特に、中、米、日の利害が集中する台湾問題の重要性の指摘は教えられるところが多大である。
 また個別問題とは別に本議事録を通読すると、事実を冷徹に見ることと自虐的な思考に陥ることとの差は、紙一重であると感じる。この差を埋めるのは何か、深く考えさせられる。
 
 この討議から2年が経った。この間、尖閣諸島周辺での中国海洋監視船による領海侵犯が頻発し、12年暮れには初めて中国機が領空を侵犯するなど、中国側の圧力は一段とエスカレートしている。
 こうしたなか、ロシアではプーチンが再登場し、中国は習近平、韓国は朴槿惠へとトップが交代、アメリカは二期目のオバマ政権がスタートする。そして日本では衆議院選挙で自公が大勝して政権が交代し、第二次安倍内閣が発足した。国民の政治への期待感がなく、これまで経験したことのないような“疲れる選挙”であったが、新内閣では、谷内内閣官房参与、兼原官房副長官補、河相外務事務次官という「安倍外交」のラインが編成された。
 本議事録の締めくくりの段階で、参加者から「あと一年なり二年先に、全体をレヴューするということが非常に望ましい」という提案がなされている。国際関係が新たな段階に入った今、是非とも続編を期待したい。それも出来れば時間軸を明確にし、広く国民への提言という形で纏めていただければ、衝撃力のある提言なることは間違いないと確信する。

KAJIMA INSTITUTE of INTERNATIONAL PEACE