「分析・意見・批評」トップページ > 情報通信革命の第二幕?--アウトソーシングとオフショアリング--

情報通信革命の第二幕?--アウトソーシングとオフショアリング--

鹿島平和研究所理事
中央大学 総合政策学部教授
元経済企画庁事務次官
田中努

 1970年代の初め頃から世界貿易が急速に増加してきた。その理由はどこにあるのだろうか。最大の理由は世界の国民総生産の増加である。しかし世界貿易の伸びは世界の国民総生産の伸びを遙かに上回った。このため国民総生産に対する貿易の比率は急速に上昇した。このことは言い換えれば、国内で使われる財・サービスに対して貿易の対象となる財・サービスの比率が高まったことでもある。
 1970年代以降に現れた新しい貿易拡大要因として次のよう事情が考えられる。関税率の引下げとそれに引き続く非関税障壁の引下げが貿易拡大効果を持ったのに加えて、1980年代に入って情報通信技術の革新、情報通信インフラの整備、それに伴う情報通信コストの急速な低下が起こった。このことを背景に、生産活動が国際化した。従来から先進国の国内で行われていた部品や中間製品の外部発注による生産(アウト・ソーシング)を国際的な規模で現地生産というかたちで行なうことが容易になった(国際的アウト・ソーシング)。こうなると従来は国内の企業に部品や中間製品を供給していた企業が世界の同種企業を相手に供給することが可能になり、小さな企業でも世界市場を相手に取引する企業に成長するようになった。これにともなって、中間財貿易、部品貿易が盛んに行われるようになった。従来、貿易は主に最終製品を中心に行われてきたが、そのような貿易の姿は一変した。
 もう一つの貿易拡大要因はサービス貿易の拡大である。情報通信技術の進歩によって電話による応答業務や、データ処理業務、プログラム開発業務、会計、医療、教育などさまざまな技術水準の業務を遙か海を隔てた遠隔地で安いコストで処理することが可能になった。外注先の代表例はインドである。インドの英語力、高い教育水準、米国における学習経験・職業経験などがそれを支えている。このようなサービス部門におけるアウトソーシングをオフショアリングということが多い。オフショアリングという言葉は法人税のかからない小国に金融業の本拠地を置くことを指す言葉として用いられるていたが最近では上記のような意味で使われるようになった。
 この意味でのオフショアリングがアウトソーシングと異なる点は、アウトソーシングは大量生産に見られるような比較的単純な労働を賃金の安い途上国で調達する目的で行われることが多いのに対し、オフショアリングは比較的単純な労働(例えばコンピューター入力業務)の場合もあるが、もっと高度な技能を要する業務(例えば大規模で複雑なプログラムの開発業務)である場合も多いことである。従来型のアウトソーシングであれば、国内労働者がより高い技能を身につけて、より付加価値の高い部門に移動すればすむことだった。そのことで国内の生産性を高めることができた。しかしオフショアリングの場合は、高技能労働者に向いた仕事自体が外国に移動してしまうので国内の雇用機会が失われるという新しい問題が内包されている。
 米国の前回の大統領選挙のとき民主党のケリー候補がこの問題を大きく取り上げたことからこの問題は政治問題として大き脚光を浴びた。この問題はもともと経済分析上の問題として議論されてきた問題であり、選挙後は経済学者の間で議論が続けられてきた。最近になって有力な経済学者で米連邦準備制度の副総裁も務めたブラインダー教授が、オフショアリングを、産業革命(1970年以降の石炭利用を中心とした)、第二の産業革命(20世紀の初頭以降の電力、鉄道などを中心とした)に続く現在進行中の第三の産業革命(情報通信革命)の第二幕にあたるものと位置づけ、現在すでに起こっている部分は氷山の一角に過ぎないと論じたことから議論が再活発化した。
主な論点は、オフショアリングの対象になるのは具体的にどのような職種なのか、どれくらいのウエイトを占めるのか、現時点までにどの程度の雇用が失われたのか、といった実証的な問題、将来どこまで拡大するのかといった見通しの問題、貿易拡大は一部に痛みを伴うが国民経済全体としては従来通り貿易拡大によって得る利益のほうが大きいのではないかといった経済分析上の問題、どのような政策対応(セイフティーネットの拡大、職業訓練、教育、研究開発政策など)が可能か、また望ましいのかといった政策問題に及んでいる。こうした議論はいま米国で盛んに論じられているが、日本もいずれは同様の状況に直面することが予想するだけに注目される。


KAJIMA INSTITUTE of INTERNATIONAL PEACE