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オバマ大統領のノーベル平和賞受賞

鹿島平和研究所理事
福山大学客員教授
日本ノルウェー協会会長
元駐ノルウェー大使
妹尾正毅

オバマ米国大統領のノーベル平和賞受賞が話題になっている。快挙として歓迎する意見があるとともに、米国内を含め「早過ぎる受賞では」等の懐疑的な反応も少なくない。 
 私はノルウェー勤務時代にノーベル平和賞授与式には3回出席し、その後旧知の事務局長の訪日時には広島に案内したりもした。これらの印象から気付きの点を述べてみたい。
 先ず指摘したいのは、ノーベル平和賞は、候補者の活動の成果というよりも、候補者の取り組みそのものの意義に即して贈られているということである。だから受賞者の努力は成功することもあれば、失敗に終わることもあり得る。私が授賞式に出席した場合でも、南アフリカのデ・クラーク大統領とマンデラANC総裁(後の大統領)のように受賞の後に白人支配から民族融和への移行に成功したケースもあれば、その翌年のラビン、ペレス、アラファット三氏の場合のように受賞者の目指したイスラエル・パレスチナ間の和解と中東和平自体が未だに実っていないといった場合もある。要するに、結果が総てというより、時代の要請を先取りすること自体が重要だと考え、割り切っているということである。
 第二に、これと同じ線上にある特徴として選考は無難に徹しはせず、受賞者は伝統を維持する人よりも新しい時代を切り開こうとする人が多いことである。その人選は全会一致によるので最終決定に反対の委員がいればその委員は辞任する。上述のラビン首相、ペレス外相、及びアラファト議長の三人が受賞した際は、アラファットはテロリストであるとして受賞に反対した委員が辞任している。またラビン首相はその後自国の狂信的民族主義者に暗殺されている。この際の受賞者の場合は誰をとっても内外に受賞反対の強い意見がありえたであろう。反対の有無を考慮した上で授賞者を決めてはいないということである。
 第三に、私がノルウェー人なら喜んでオバマ大統領へノーベル平和賞を贈ったであろう。
 ノルウェーは所得の半分強を税金として再配分して高度福祉社会を実現するとともに、男女共同参画社会という形で徹底的に男女同権を推進し、過去十年間のうち8年間は世界で人間開発が最も進んだ国(UNDP認定)に選ばれている。対外的には初代国連事務総長等を輩出し、国際協調を旨としつつ、平和で豊か、かつ公正な世界の実現を目指し、軍縮、環境、貧困、人権対策等を諸国の先頭に立って推進して来た。その一人当たり途上国援助額は殆ど常にDAC諸国中第一位を占め(2008年で日本の7倍強)、地球温暖化問題ではCo2の排出量を2020年迄に1990年比40%減とする先進諸国中で最も進んだ目標を掲げている。
 即ち、オバマ大統領が就任以来展開して来た外交政策や対外姿勢はノルウェーという国がこれまで一貫して推進してきたものと共通する点が少なくない。
 世間の関心はもっぱらオバマ大統領による受賞そのものばかりに向けられているが、私はあえてそういう思い切った選択を行うノルウェーという国そのものにもっと関心を示して欲しいと思う。ノルウェーの人口は460万人、即ち日本の30分の1ほどにすぎないが、右顧左眄することのないこの国の国際的な功績と存在感はそれより遥かに大きい。国際社会における日本のあり方を考える上でも知っておいて良いことではないかと思う。


 


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