分析・意見・批評」トップページ> 2010年全人代の主要三報告書を読んで 

2010年全人代の主要三報告書を読んで               (2010.03.31)

鹿島平和研究所理事
元在中国大使
國廣道彦

 今年も全人代の「政府活動報告書」(温家宝首相)、「国民経済・社会発展計画案」、「中央と地方の予算報告」の三文書を今回も全文読んだ。

その要点を述べれば、まず、内外の厳しい情勢にかんがみ「引き続き積極的な財政政策」と「通貨緩和政策」を実現するとしている。

今年は政策の重点を次の諸点に置く。

  • ① GDPの成長目標を8%前後とし、
  • ② 経済構造を最適化する(内需拡大、非効率産業設備の撤廃から、R&DをGDP1.75%以上に引き上げる。GDP単位あたりのエネルギー消費を20%下げる、etc)
  • ③ 民生を保障し、改善する。(国民所得の分配構造を逐次調整、農民の所得向上、社会保障、医療の改善など)
  • ④ 消費物価の上昇率を3%程度に抑える(他方、インフレ誘導期待という言葉も)
  • ⑤ 国際収支を改善する(対外投資効率を高める。元の切り上げには言及なし)
 本年度の予算では全国レベルの歳出は8兆4530億ドルである。これにたいする歳入は7兆3930億元であるから、財政赤字は昨年より100億元増の1兆500億元になる。そのために中央政府は8500億元の国債を発行し、さらに地方政府に代わって2000億元の国債を発行する。これは一昨年秋に発表した4兆円の景気刺激策の後半を実施することを含んでいるから、この程度の財政赤字を出してもそのこと自体は問題ではない。昨年の国債残高の対GDP比については、財務部長が記者会見で20%と言っている。主要国の中では依然最も低いと言える。
 予算の主要項目の中で伸び率が比較的大きいものをみていくと次の通りである。ちなみに全国支出の歳出は8兆4530億元で11.7%増である。(ただし中央レベルの支出は1兆6049億元で5%の伸び)
  • ① 教育支出は2159億元9000万ドルで、9%伸び
  • ② 科学技術支出は1632億8500万元で、8%増
  • ③ 医療衛星支出は2389億1800万元で8.8%の増
  • ④ 社会保障費・雇用対策支出は3582億2500万元で、8.7%の増
  • ⑤ 住宅保障支出は9928億5800万元で、31.4%の増 
  • ⑥ 農業、林業、推理関係支出は3778億9400万元で、7.6% の増
  • ⑦ 国土・気象関係支出は336億2500万元で、37.66%
  • ⑧ 環境保護支出は1412億8800万元で22.7%の伸び
  • ⑨ 食糧・食用油物資備蓄関係支出は1078億4100万元で4.4%の微増(原油は非鉄も入るらしい)
  • ⑩ 商業・サービス名と関係支出は852億5800万元で38%の大幅増(農村のメタンガス、飲用水など含む
  • ⑪ 震災・復興支出は780億1000万元
  • ⑫ 国防支出は5190億8200万元(約6.6兆円)で、7.5%増
  • ⑬ 公共安全支出は1390億6900万元で、8%増。(上海万博警備比を含む)
  • ⑭ 国債利払いは1535億1600万元で16.2%の増となる。
 以上をざっと見ただけでも、温家宝のいわゆる「大衆の切実な利益に係わる際立った問題の解決」(民生の改善)に相当本気で取り組もうとしている姿勢がうかがわれる。民生諸分野に振り向ける中央財政支出は8077億8200万元で8.8%の伸び。いわゆる「三農問題」に対する中央財政支出はで、12.8%の伸びである。2008年の実績が5955.5億元(それでも前年比では37.9%増)であったことと比較すれば重点の置き方がわかる。
 民生改善の具体策は詳細に説明されているが、年金制度、医療保険の改善普及、最低賃金、最低生活補償費の引き上げ、雇用援助、出稼ぎ農民の待遇改善など多岐に及んでいる。

国防費の顕著な伸びに関し、私は民生関係改善の社会的要求が強まるに伴って抑制せざるを得なくなるであろうと言っていたが、昨年まではその期待は毎年裏切られてきた。今年は国防費の増が22年ぶりに一桁に抑制された。それが一時的現象なのかまたは民生重視に政策転換した結果なのか、今後も注視したい。(ちなみに国防費の対GDP比は1.4%で、公表されている限りでは比較的低い)。

 今回初めてわかったのだが、国防費5190億8200万元のうち中央レベルの支出が5185億7700万元である。それは中央レベルの支出の32%を占めるから、民生関係の予算に対して大きな圧迫となっていることも事実である。
 通読して意外だったのはあれだけ問題になった食の安全や炭鉱や工場の爆破事件に対する言及がまったくないことであり、これだけ長広舌をふるいながら依然として透明度が低い(都合の悪いことには触れない)と言う感じを免れない。
 中国の経済成長は長年にわたって投資主導型できている。昨年も固定資産投資が22兆4846億元で前年比30.1%の増、GDPの67%と言う異常な高さである。それに伴って人民元建て貸し出しも10兆間近くになった。4兆元の緊急経済対策の効果という面もあろうが、いかにインフラ需要の大きい中国とはいえ、これでは過剰投資、重複投資、ひいては不良債権の増加という結果を招きかねない。昨年の経済成長の寄与度は消費4.6%、投資8%、純輸出-3.9%であった。輸出は回復傾向にあるが、消費は「家電下郷」や自動車のエコ減税などの政府施策に負うところが大きく、これらが取りやめになれば消費の伸びも減速しそうである。内需拡大に有効な対策の一つが元レートの切り上げであるが、その可能性についての言及はない。温家宝は記者会見で人民元の安定は「世界経済の回復を促進する役割を果たした」と言って、「人民元為替管理制度の改革をさらに推し進め、人民元相場の合理的均衡ある水準での基本的安定を維持する」と言ったのみであった。
 政治改革面の言及も、「社会主義民主を発展させ、人民の主人公としての民主的権利、特に選挙権、知る権利、参画権、意思表示権、監督権を確実に補償しなければならない。末端の民主を一層拡大し、末端における自治組織と民主管理制度を健全なものにしなければならない」という簡単な文章があるだけである。(全人代に対する代表の数を都市:農村=4:1とされているのを1:1に変更することを検討中という報道があったが、これは今回実現した。)




KAJIMA INSTITUTE of INTERNATIONAL PEACE