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2009年全人代について               (2009.03.11)

鹿島平和研究所評議員
元在中国大使
國廣道彦

3月3日に開幕された第11期全人代第二会議の三つの報告書(政府活動報告、経済・社会報告、財政報告)を今年も一通り読んでみました。主な感想は次のとおりです。


  1.   昨年オリンピックを成功させ、大雨、大地震などの災害を乗り切り、世界金融危機の影響を最小限にとどめた実績を誇りつつ、今年を中国の「経済発展にとり最も困難な一年となる」と警告しながらも、内外情勢を見渡せば、中国は「依然として重要な戦略的チャンスに恵まれている」と論じている。
    これは基本的に政治的レトリックだと思われるが、何を「チャンス」と考えているのであろうか? 私なりの考えでは、1)先進諸国が経済危機に悩んでいる折から、比較的安定している中国は大国としての地位を高めうる、2)中国の経済を輸出依存型から内需依存型に構造改革するよい機会だ、3)内需拡大により社会の不安を克服できる(調和社会)、4)輸出を品目的にも市場的にも多様化する(同時に競争力強化)推進力になる、等である。
  2.   今回の報告の最大の特色は、昨年以来顕著になってきた「三農」対策、社会福祉対策の一層の強化である。それは予算案に次のように現れている。

       三農対策          7161億元 + 20.2%

       社会保障・就業対策    3351億元 + 22.1%

       医療             1181億元 + 38.2%

       教育             1981億元 + 33.9%

       保障型住宅          493億元 + 171%

       環境保護          1237億元 + 18.9%

    (注)中央財政の支出全体は4兆3865億元(+24.6%)であるが、そのうち中央の支出は1兆4976億元(+12%)である。(その差は地方への租税還付と移転支出)。上記のようなしゅよう支出項目の計はこれを上回るので、一部は移転支出の中に含まれているのかもしれない 

    特に、医療保険の普及に関し、今後3年間に8500億元を投入して人口の90%が何らかの医療保険を供与できるようにするというのは注目に値する。
  3.   現在の政府の最大関心事は社会の安定と8%の経済成長確保である。8%成長確保のために、政府は公共投資の拡大と内需の増大を推進している。中央の公共投資予算は9080億元としている。昨秋に発表された4兆元の追加投資のうち中央政府が支出するのは1兆1800億元とされているが、それは「真水」かどうか? 試算しえみると、昨年末に既に1040億元前倒ししているので、それを差し引いた額の半分と今年投資すると仮定すれば、5380億元で、今年度予算の6割程度であるから、真水とみなしうる。4兆元追加投資に見合って、地方への移転支出も銀行の融資枠も大幅に増大してある。(因みに4兆元対策のGDP押し上げ効果は約1%と言われている。)
    また、積極財政の結果今年度7500億元の国債を発行するが(これに加えて地方の公債を2000億ドル)、それでも国債発行残高はDGPの20%程度で、必要により追加財政措置をとる余裕は十分にある。(因みに昨年の国債発行は約1200億元と推定される。)
     しかし、問題は輸出動向である。温家邦は「決して輸出を緩めてはいけない」と言って、輸出の多元化や輸出支援策について語っている。「経済報告」も「輸出の安定した伸び」をあげているが、世界経済の実情からみてそれは困難であろう。現に今年1月、12月の輸出は前年同期比17.5%、25.5%と減少している。同時に輸入も大きく減少しているが、今年の貿易収支は昨年の2950億ドルの黒字から1550億ドルに減少するだろうと言う見方がある。それだけGDPのマイナス要因になろうが、それよりも輸出の減少は雇用に大きな影響を及ぼすであろう。
  4. 内需拡大には、上記の項目のような財政支出の増加が役立つ。例えば、農民の収入増をはかり、都市・農村部の最低生活保障社向けの補助を引き上げる。また、小型自動車の半額減税は既に効果を示しているし、農村における家電、農機具等の購入に13%の補助も人気を得ているようである。農村スーパーを25万店開設する,等々。
    以上のような対策を採ったとして今年のGDP成長目標8%が達成可能かどうか断言はできないが、今年後半には盛り返すであろうと思われる。おそらく、中国経済が最も早く不況を脱出するだろうと思われる。
  5. しかし、当面より具体的な関心事は雇用の確保である。政府は雇用確保のためにあらゆる手段を講じるとしている。
    政府は今年も900万人の都市労働者の新規創出を目標としている。そして失業率を4.6%ていどにするとしている(昨年実績は1113万人、4.2%)。特に深刻な問題は既卒者を含めた約760万人の大学生に対し、政府は彼らを農村、軍、大学内で就職させるよう種々の支援策を講じているが、彼らの不満が爆発することを最も警戒しているろと思われる。他方、数の上では農村の失業問題はもっと大きい。農民工で都市部に再就職できないでいるものがさらに1100万人居ると伝えられている。政府は農民工に対する社会保障の適用や子女教育の改善などの対策を採っているが、当面は農村に失業者のバッファー・ゾーンになってもらわざるを得ないであろう。
  6. 今回の財務報告でもう一つ注目されるのは公共安全支出の著増(1161億元、+32.6%)で、通常は公安・検察・司法の予算であるが、今回は「公安と武装警察部隊の建設と情報化整備を強化する」と特記している。国防支出は4729億元で15.3%の伸びであるが、これは新聞に伝えられた通り。経済危機にあっても二桁の増を続けると言うのは、軍事力強化に対する中国の強い執念を示すものである。
    科学技術予算も1561億元で伸びが大きい(+25.6%)。今年のR&DはGDPの1.58%になると言っている。
    伝統的に公共事業の主役であった道路・鉄道・空港建設などの予算は1887億元で、17.9%の増である。うち、北京=上海新幹線など鉄道。空港関係に549億元、農村の道路建設に548億元が含まれている。
  7. 温総理は民主法制の強化、政治体制改革の推進についても一ページにわたって語っているが、民衆の苦情処理の現実などから見ても空虚に聞こえる。恐らく目下のところ社会不安を抑えるのに手一杯と言うのが実情であろう。
  8. 台湾に関しては昨年に引き続き平和的対話と協力を強調して、「国際機関の活動への台湾の参加について情理にかなうとりきめを行い」、「敵対状態に終止符を打ち、平和協定を結ぶための条件をつくりたいと願っている」と述べている。

    (注1)中国は意外に小さな政府である。昨年の中国のGDPは30兆元強で全国の歳出が約6兆2427億元であったから、歳出のGDP比は21%弱である。米国で財政のGDP比が20%を超える大きな政府になるのではないかと大騒ぎしているが、これは連邦予算だけの数字であるから、中国の中央の歳出が約3兆6320億元であったから、GDPの12%。

    (注2)今年の財務報告は中央の政府系基金の収支についても説明してある。鉄道整備基金、港湾整備基金、三峡ダム整備基金、民間空港整備・管理基金などである。その支出規模は2881億元と報告されている。




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