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北京オリンピックは上手く行くだろうか?        (2007.08.08)

鹿島平和研究所評議員
元在中国大使
國廣道彦

 いよいよ北京オリンピックが後一年に迫ってきた。東京オリンピックもソウル・オリンピックも日本人、韓国人の自信と誇りを深め、その後の飛躍の踏み台になった。北京オリンピックもぜひともそのように成功して欲しいものだ。
 私は昨年9月日中青年指導者交流計画の訪問団団長として訪中したとき、北京オリンピック委員会の本部を訪問して、準備の進捗情況の説明を聞いた。北京市がオリンピックのための開発で様変わりしているのは、バスの窓からも如実にわかったし、委員会側の説明でも競技施設の準備がほとんど完成に近づいていることは疑いないと思った。委員会側の関心事項は既に競技施設以外のところに向けられており、交通手段、大気汚染などの環境問題から住民のマナーまでさまざまな問題に取り組んでいると言っていた。
 交通手段については地下鉄の開発が進められており、またオリンピック期間中は私用車の使用を制限するそうだ。既に、北京で奇数日にはプレート・ナンバー奇数の車だけ、偶数日には偶数ナンバーの車だけという規制を4日間実施した。その他環境問題についても当局はいろいろな手をうっているようで、空気の質のよい日が1998年の100日から2006年に241に増え、深刻な空気汚染の日が141日から24日に減ったというWHOの調査を引用している。しかし、最近北京を訪問した人たちの印象はかなり違うようだ。当局はオリンピック期間中、汚染排出企業の操業を停止すると言っているがどれだけの効果があるのだろうか。それに加えて、最近は食物の安全の問題が急浮上してきている。これが、短期間のオリンピックに与える影響は小さいと思うが、水質の問題とともに心理的不安を与えることは避けがたい。
 以上のような問題よりも、私がひそかに心配しているのは、中国社会にくすぶっているさまざまな不満がオリンピックという世界の目が集まっている時に噴出するのではないかと言うことである。さらに、この機会を利用しようとする内外の活動グループの動きもある。オリンピック委員会の代表はそのようなグループがオリンピックを政治問題化しないように警告し、「既にいろいろな方面から多くの声を聞いているが、我々はこれからそのような声が大きくなることに心理的用意ができている」と言っている。チベット問題、環境破壊、報道規制の問題、農村の不満、流動労働者の不満、強制的に移住されたものの不満などイッシューにはこと欠かない。さらに、この時期を狙って台湾独立派が何をするかわからない。ダルフール虐殺問題を抱えるスーダン政府に援助を与えているなどの理由で北京オリンピックを「ジェノサイド・オリンピック」と呼んでボイコットを働きかけている人権グループもある。まさか、モスクワ・オリンピックのようにはならないであろうが、厄介な動きではある。おそらく、中国政府もこのような問題発生の危険性に最も頭を悩ましているであろう。
 このような危険性に対処する方法として先ず予測されることは事前の取り締まりである。既に北京の外国人ジャーナリストはオリンピック関係の取材を自由にすると言う政府の方針にもかかわらず、現実にはさまざまな取材制限を受けているという不満を述べている。これまでの経験では、重要行事の前に注意人物を北京から遠くに移すという方法がよくとられた。天安門事件以降中国では武装警察が強化されているから、警備は厳重に行われるであろう。しかし、本当に難しいのは、事件が起きた後の処理の仕方である。警備側が過剰にリアクトすれば、火に油を注ぐことになる。当局が「心理的に準備できている」ということがその辺の対策を整えているということであることを願う。




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