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「中国の強国戦略」を読んで (尾崎春生著、日本経済出版社)       (2007・08・07)

鹿島平和研究所評議員
元在中国大使
國廣道彦

「中国は『大国』から『強国』を目指して走り出した」と著者は言う。なにか怖い感じがするが、国土も人口も大きい中国は本来「大国」である。それが今や経済大国になろうとしていると言うのが我々の見方であるが、中国からすれば質の強化が問題なのである。だから周囲に与える威圧感など気にせず、「経済強国」、「技術強国」などと口にする。日本は「近代化」と言っていたし、中国も以前は「現代化」と言っていたのだが、この本を読むと最近「強国」と言う言葉が随所に使われていることに気づく。その裏には、「屈辱の植民地体験に基づく『中華民族の偉大な復興』の悲願がある」と著者は言う。

私は著者の単行本を読むのは初めてであったが、この本は中国の現状と将来方向について、実によく調査、分析してあると思う。特に初耳のことが多いわけではなかったが、これだけ総合的に纏めるのは大変なことである。中国について考えてみようと言う人に一応十分な知識を提供する本である。

私は中国の技術水準と将来の進歩についてかねてより知りたいと思っていたが、第二章は参考になった。一般の読者に最も参考になるのは第三章の「強国実現のアキレス腱」であろう。エネルギー、環境、金融システム、所得格差・社会保障を取り上げてよく説明してある。ただ、私はこれらを解決するために必要な財政コストがどれくらいで、最近歳入が著しく伸びてはいるが、財政がどこまで負担し得るのかをもっと知りたいと思った。

著者は「中国崩壊論」について差し迫った懸念を抱いていないようである。私もどちらかと言えばそれに近い見方をしているが、崩壊論について少し分析してもらえたらと思った。例えば、オリンピックは無事行われるだろうか、オリンピック、万博後の危機説をどう見るのかなど。所得格差の問題について、「有効な措置を採らなければ5年以内にレッド・ゾーンに突入する」という当局の報告書を紹介しているが、本当にそうだとしたら、かなり心配なことではるまいか。また、中国のGDPにたいする投資比率の異常な高さを指摘してはいるが、過度の投資依存の経済成長がいつ行き詰るかという心配はしないれよいのだろうか。

第四章の「『ノー』という外交・軍事戦略」も興味深い。中国が自分の軍事力をまだ相当低いと見ているというのが特に私には興味深かった。しかし、本来「ノー」と言って喜ぶのは弱者の心理ではあるまいか。それを乗り越えたときに本当の強国外交になる。

  第五章の「日本の中国・アジア」戦略の節で著者が述べている提案に私も賛成だが、仮に「日米中の戦略対話」が実現するとしても、そこで日本が何を話すべきか、日本がどういうスタンスをとるべきかが問題なのであって、そこをさらにつめる必要がある。これから日中間で最も難しい問題はどうやって偏狭なナショナリズムを抑制するかと言うことだと思うが、この点についてこの本は余り触れていない。しかし、最後に「尊敬される国」になる決意に触れているが、これは重要なポイントである。



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