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2020年を視野においた対中政策 (修正版)             (2006.9.8)

鹿島平和研究所評議員
元在中国大使
國廣道彦

 この原稿が印刷される頃には、日本の新総理が決まって、これからのアジア外交をどうするかの議論が行われていることであろう。新政権になっても、靖国神社問題など過去の問題について数年来と同じような議論をしているのでは誠に不幸である。ぜひとも長期的視野にたって大局的な政策を打ち出してほしいものだ。特に日中関係についてそうである。
 中国は2020年までにGDPを2000年の4倍にするという目標を立てて、その路線を着々と進んでいる。もちろん中国はご存知のとおりの多くの問題を抱えているが、この目標を達成する可能性は強い。そのときの中国のGDPは現行為替レートで日本とほぼ同じレベルになろう。(購買力平価では現在既に中国のGDPは日本の2倍以上と言われている)。その頃までには中国の軍事力の近代化は相当進んでいて、それがアジアに及ぼす影響力は現在よりはるかに大きくなっているであろう。
 2020年はボゴール宣言が済貿易自由化を目指している年でもある。その成否はともかくとして、その頃までにインドを含めたアジアの経済力が増大し、それが資源問題を含め世界の経済構造を相当大きく変えているであろう。
 そのようなアジアの中で日本はどうすれば平和と繁栄を維持していくことができるかという展望を持ち得ないでいる。そのために日本人の多くは中国の動きに一喜一憂して感情的になりやすい。しかし、2020年頃の中国を考えれば、日本は中国と張り合っているのではなく、協力関係を広げていかざるを得ない。
 日中間の経済関係は拡大してきているから政経分離でいけばよいという議論があるが、果たしてそうであろうか。今でも中国では大型の商談を日本に落とすのにはかなりのリスクがあるという声を聞く。昨年4月反日デモ以来中国政府はかなり真剣に対日世論の悪化を防いでいる様子が伺われる。わが方としては今のうちに中国の世論を少しでも改善する努力をしなければなるまい。いわゆる「憤青」の世代が中国の主力を占めるときが目の前に来ている。中国の民主化が進めばそれだけ彼らに対する政府のコントロールがきかなくなる。我々はそういう時代に備えなければならない。
 中国経済の拡大に伴って、軍事力も拡大していくことは不可避であろう。現在のミサイルの増強振り、潜水艦の増強振り、航空機の整備、ハイテクによるC4の強化などを考えると、後15年もすれば米国といえども武力で中国に介入することは事実上不可能になるのではあるまいか。これに対してわが国としては、日米安保体制を不動のものとして堅持していかなければならないが、同時に中国との戦略的な対話を深め、アジアの平和のために協力しうる関係も造っていかなければならない。特に北朝鮮をめぐる朝鮮半島の平和維持は両国にとって喫緊の課題である。このような重要な対話が靖国問題のために出来ないというような状態はもはやゆるされない。

 安全保障の問題に直結する問題として、資源・エネルギー問題がある。中国はGDP単位あたりのエネルギー消費を5年間に2割減らすと言う目標を立てた。その実現は困難視されているが、それを達成しても中国が生じるエネルギー不足は到底解決されそうにない。資源獲得競争は激化するだろう。しかもその主力を占める石炭消費がもたらす環境問題はますます深刻になる。だから、日本は中国のエネルギー・環境問題に中国と一緒になって取り組まなければならない。

 2020年の日中関係の理想的な姿は両国がアジアの平和と繁栄のために協力する関係にあることである。そこに日中間の最大の「共通の利益」を見出していくべきである。その場合、日本はいかにして影響力を維持できるであろうか。少子高齢化が進む日本は条件に恵まれているとはいえない。唯一の活路は日本の技術リードである。それも宇宙開発など中国に既に先を越された分野もあるが、日本はいくつかの得意分野に資源を集中して競争力を維持しなければならない。それにはこれから15年間人材育成を含め不断の努力を積み重ねていかなければない。

 2020年には文字通り大国になり自信を持った中国が目の前にいるだろう。我々はそういう中国と泰然と付き合えるよう今から準備しなければならない。    (FEC会報所載)

KAJIMA INSTITUTE of INTERNATIONAL PEACE