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2010年の日中関係                          (2006.5.10)

鹿島平和研究所評議員
元在中国大使
國廣道彦

中国は今年から2006年にかけての第115カ年計画を発表した。これにより2010年の中国についておおよその見当がつくようになった。いよいよ日本と比肩する経済大国の出現である。同時に2010年までに中国はオリンピックを終わり、上海エクスポを終わることになる。この二つの歴史的行事に成功すれば、中国は自信を深め、それまでに国際世論に配慮して慎んできたことから開放感を抱くようになるだろう。そのような中国との関係でわが国はどのような立場におかれるか、わが国としての対中政策はいかにあるべきか。それらの点を検討してみたい。

経済的にも世界的に強大な中国が実現する

1.2010年の中国経済は日本と拮抗するところまで発達しているであろう。
 中国の2010年のGDPの目標値は26.1兆元で、それは現行レートで約351兆円であるが、今の成長率から見て、実績はこの数字をかなり上回るであろうし、その間に元に切り上げも進むことが予想されるので、為替レートのベースでも2010年の中国のGDPはわが国に相当近づくと思われる。なお、PPPベースでは現在でも中国のGDPはわが国の23倍になると見られている。
 貿易、投資の規模もさらに大きくなろう。昨年の中国の貿易額は14200億ドルにのぼり、わが国の147億ドルを超えた。中国政府は2010年には23000億ドルに達すると想定している。中国に対する外国の直接投資は昨年603億ドルであったし、中国からの対外直接投資は60億ドルに達した。後者はこれから益々増大するであろう。

2.こういう観測に対し、中国では経済が発展しても貧富の格差が増大するばかりで、環境問題は悪化し、国内には集団的抗議が続発している状況に鑑み、右肩上がりの経済成長が続くかという疑問の声を聞く。そのおそれは長期的にはあるが、これから5年間にそのような問題のために中国の経済発展が混乱に陥る可能性はあるまい。中国の失敗を期待していても、その間に、中国の強大化は進むのである。
 念のため、中国の高度成長の制約要因になりうるものを列記すれば、第一に国内政治の混乱、第二にエネルギー問題、環境問題、第三に過剰投資によるインフレ、不良債権増大、第四に貿易摩擦、元レートの調整問題などが考えられる。いずれも深刻な問題であるが、中でも国内政治がもっとも予測困難であり、例えば、オリンピックを前に反体制派が世界世論に訴える行動を起こす可能性もありうるが、それも指導部が割れない限り防止するであろう。既に政府は農村、農民対策や社会福祉政策を従来より積極的に取り始めた。要するに、経済問題は今後5年間についてはいずれも何とか乗り切れると思われる。


強大化した中国が与えるインパクト 

3.経済大国に発展した中国が我々にいかなるインパクトを与えるであろうか。先ず第一に、2010年までに北京オリンピックと上海万博をなしとげた中国は国際関係における自己抑制の必要を感じなくなるであろう。自己主張を強め、ナショナリズムの傾向を強めるであろう。
 中国は経済発展のために平和的な国際環境を維持したいという基本方針持っており、それは2020年に小康社会を実現するという目標を達成するまで政府としては続けるつもりであろう。しかし、2010年以降の中国人の国際社会に対する態度には相当大きな変化が生じるであろう。

4.第二に、中国はアジア地域における影響力を一層強めるであろう。2010年には中国とアセアンとのFTAがスタートする。アセアンにとって輸出市場としての中国は益々重要になる。また、中国からのアセアン諸国に対する直接投資も増えるであろうし、政府の援助も増えるであろう。(今年中国は援助予算を50億元計上しているが、これも今後増えていくであろう。)韓国経済の中国依存度も一層増大するであろう。
 その結果、アジア諸国は対中配慮を強め、中国と対抗する形では日本はアジア諸国の支持を得がたくなるであろう。

5.第三に、中国は資源確保の努力を強めるであろう。それに伴って、我が国との資源獲得競争が激しくなるであろう。
 中国の石油消費はすでに我が国を超えて世界第二位になっている。IAEAの予測では2010年に中国の石油需要は37500万トンに達する。国内生産は現在の1億8000万トンを上回ることはないであろうから、約2億トンの輸入が必要になる。それは我が国の輸入需要予測23400万トンに近くなる。世界全体の原油供給量の伸びに制約がある中で、米、日、中間で厳しい石油獲得競争が展開されるであろう。(それにインドも加わってくる。)
 鉄鉱石、非鉄金属、食料、飼料などの資源についても同様である。

6.第四に、経済規模の拡大に伴って、中国の軍事力は一層強化され、西太平洋においては米国の軍事力に近づいてくるであろう。特に核兵器能力の向上とミサイルと潜水艦の増強により、米国が中国を攻撃するというシナリオは成り立たなくなるであろう。
 東アジアの安全保障においては台湾問題と北朝鮮問題が最大の課題である。特に台湾に関しては、2008年の総統選挙に当たって、憲法改正など民進党が独立に向けての動きを進めるかどうかが注目される。米国は武力行使の事態を避けるために台湾独立の動きを抑える努力をするであろうし、台湾住民の大勢は現状維持であろうから、国民党が勝つのではないかと思われるが、民進党は独立に向けての最後の機会と考えるであろう。中国も当面は現状維持で行くであろうが、2008年の総統選挙で民進党が過激な行動に出れば、中・台関係は緊張するであろう。
 中国の軍事力が強化されるに伴って、我が国では反中ナショナリズムが高まる恐れがある。

我が国がとるべき対中政策

7.以上のような強大化する中国に直面して、日本に起る恐れが大きいのは偏狭なナショナリズムである。しかし、日本は隣の大国と平和に生きていく道を追求しなければならない。少子高齢化する日本経済は発展の場として中国市場を必要とする。他方、中国の側にも偏狭なナショナリズムの抑制を求めなければならない。
 基本的には教育の問題である。5年間では足りないであろうが、今から双方の国民に、過去の歴史で言い争うよりも、現在の両国の実情を理解する教育を始めるべきである。我が国から言えば、中国に対するpublic diplomacyを展開すべきである。インターネット、テレビその他のマスコミを通じる広報を展開すべきである。文化交流、人物交流を格段に増やすべきである。ジェット・プログラムを中国にも適用すれば効果が大きいであろう。大学や研究機関との交流を深めてエリートに対する広報も強化する必要がある。歴史の共同研究も辞すべきではない。靖国神社問題は是非とも両国関係の中心的な地位から外すべきである。さらに、一般論として、日中国民双方の一部に内在する相互蔑視をなくさなければならない。双方の文化の優れた点に対する敬意を培う教育が必要である。
 また、体制の異なる国との間で良好な関係を保つためには、双方に共通の利益になることについて意識的に見出し、拡大する努力が必要である。その好例は環境問題であり、省エネルギーである。感染症対策もある。麻薬、密貿易、蜜入国、海賊防止のための協力もある。さらには少子高齢化対策もある。わが国内においても、このような分野での協力が自国の利益になるという理解を広める必要がある。


8.中国が経済規模として大国になっても経済の質から言えば我が国は依然先進国である。日本は社会保障で中国社会よりはるかに優れているし、環境保護でも中国より断然進んでいる。エネルギー効率もはるかに高い。そういうことが日本人の自信を支える。しかし、将来にわたって自信を持ち続けるためには技術リード(競争力)を維持しなければならない。ロケット秘術など既に中国の方がリードしている分野はいろいろある。中国では大学入学者が530万人でその半数以上が理科系だという。毎年生み出す技術者の数が我が国と比べて桁違いに多い。また、中国は2,020年までに研究開発費を先進国並みのGDP比2.5%にまで引き上げ、「創造革新型」の国造りを目指している。日本が将来にわたって日本が技術リードを保つにはよほどの努力を必要とするが、日本が得意とする分野でのリードは可能なはずである。そこに日本の活路を見出さなければならない。

9.日本が強大化する中国との間に安定的な関係を維持するためには安全保障が基本である。その基礎は日米安全保障であり、米国が日本を守ることが米国の国益上絶対に必要と考えるような日米協力関係を堅持することが必要である。同時に、中国にも東アジアの安全保障に参加意識を持たせるような配慮が必要である。中国も東アジアの平和秩序のステークホールダーにすることである。ARFをその観点から強化することも検討すべきである。六カ国協議のメカニズムを東アジアに拡大するという方法もありうる。そのような枠組みは日米安保を代替できるものではないが、補完することは可能なはずである。そのような方針を日本はアジアにはっきり示していくことが必要である。

10.日中関係は国際的にも注目されている。アジアの平和に置ける日中関係の重要さから見て当然のことである。また、日中関係が対立すれば、漁夫の利を得ようとする国が出てくることも、国際政治の力学から言って当然である。日中間の問題を国際化することは必ずしも適当なことではあるまいが、国際世論を我が国に有利にするよう努力すべきである。この点、歴史上の経験に徴すれば、中国の方がうまく立ち回ってきた。過去の戦争にかかわる問題では中国の議論の方が共感を呼びやすいことに注意を要する。しかし、今日の世界が直面する問題については、靖国問題は別として、わが国の政策のほうが説得力があるであろう。我が国の立場を国際的に通用する論理で説明していくべきである。

KAJIMA INSTITUTE of INTERNATIONAL PEACE